米中GaN特許紛争 ~EPCとInnoscienceの攻防~
窒化ガリウム(GaN)技術を巡る米中間の特許紛争が新たな局面を迎えています。2024年11月7日、米国国際貿易委員会(ITC)は、EPC(Efficient Power Conversion Corporation)とInnoscience Technology間の特許侵害訴訟に関する最終決定を発表しました(Investigation No. 337-TA-1366)。両社が発表した声明からは、判決の影響をめぐる異なる視点が見て取れます。
ITC判決の概要
ITCは、EPCの米国特許第8,350,294号(’294特許)のクレーム2および3について、Innoscienceの製品が侵害していると判断しました。この結果、特定のInnoscience製チップに対し米国への輸入制限を命じる限定的排除命令が発出されました。一方、同特許のクレーム1については明白性を理由に無効とされ、別のEPC特許である米国特許第8,404,508号(’508特許)については侵害が認められませんでした。
また、ITCは対象製品に対し、輸入時に5%の保証金を課すことを決定しましたが、Innoscienceの顧客による完成品の輸入には影響がないとしています。この点については、後述の両社の声明からも異なる立場がうかがえます。
両社の主張
EPCの見解
EPCは今回のITC決定を「大きな勝利」と位置づけています。同社の声明によれば、ITCがEPCの特許侵害主張を認めたことは、GaN技術におけるリーダーシップを裏付けるものであり、同社の知的財産の有効性を再確認する結果となりました。EPCのCEOであるアレックス・リドウ氏は、「知的財産を積極的に守りながら、革新を続けていく」と述べ、特許ライセンスを通じた技術の普及にも意欲を示しています。
さらに、EPCは過去20年間にわたりGaN技術に関する特許ポートフォリオの構築に注力しており、今回の判決は同社の知的財産戦略の成功を証明するものであると強調しています。
Innoscienceの見解
一方、Innoscienceは、今回の決定が顧客に与える影響はないと主張しています。同社によれば、排除命令はInnoscience製チップそのものに限定されており、顧客が完成品を輸入することには支障がないとしています。
また、’294特許については「無効性を示す根拠がある」とし、米国特許商標庁(USPTO)で進行中のIPR(インターパーテスレビュー)の結果に期待を寄せています。この結果は2025年3月に発表される予定です。
さらに、InnoscienceはITCが示した「補償GaN層」の解釈を踏まえた設計変更をすでに行い、特許回避設計を施した新製品を市場に投入する準備を進めています。同社は今後も控訴やIPR手続を通じて争いを続ける方針を表明しています。
今後の展望
今回のITC判決は、EPCとInnoscienceの双方にとって重要な節目となる一方で、最終的な結論が出るまでにはまだ時間がかかる見込みです。特に’294特許の有効性を巡るUSPTOでの審理結果や、両社が示唆する控訴の行方が今後の焦点となるでしょう。
また、EPCは特許ライセンスを通じた知的財産の普及を目指し、Innoscienceは特許回避設計を通じて市場での競争力を維持しようとしています。GaN技術は、電力効率や小型化の面で大きな革新をもたらす技術であり、今回の争いは業界全体にも影響を与える可能性があります。
今回の事例は、知的財産戦略が競争力を左右する半導体業界において、特許の有効性や侵害判断、さらには特許回避設計の重要性を示す好例といえるでしょう。EPCとInnoscienceの争いは、GaN技術を巡る競争の激化を象徴しており、その結果は今後の技術開発や市場構造に大きな影響を与えると考えられます。